最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)160号 判決 1966年3月18日
上告人
蟹沢カヨ
上告人
沢藤善八
右両名訴訟代理人
大川修造
被上告人
小原政治
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人大川修造の上告理由第一について。
原判決は、その事実摘示において、上告人蟹沢カヨの主張を、所論の準備書面書載のとおり訂正し、その理由において、右主張について判断しているから、原判決には、所論の違法はない。
論旨は、原判決を精読しないで、論難するものであるから、採用できない。
同第二について。
不動産の所有権を取得したことのない者のために、右不動産について所有権保存登記が経由されている場合には、右不動産の所有権者が右保存登記の抹消登記手続を訴求できることは当然である。右不動産について、第三者のために抵当権設定登記が経由されている場合には、右抵当権者の承諾書またはこれに対抗することのできる裁判の謄本の添附がなければ、右保存登記の抹消登記の実行は不可能である(不動産登記法一四六条一項参照)から、右抹消登記手続を命ずる判決が確定することによつて、右抵当権者の権利が害されることはない。
論旨は、独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、採用できない。
同第三について。
不動産登記の抹消登記手続を求める請求は、被告の抹消登記申請という意思表示を求める請求であつて、その勝訴の判決が確定すれば、それによつて、被告が右意思表示をしたものとみなされ(民訴法七三六条)、その判決の執行が完了するものである。したがつて、抹消登記の実行をもつて、右判決の執行と考える必要はないから、右抹消登記の実行が可能であるかどうかによつて、右抹消登記手続を求める請求についての訴の利益の有無が左右されるものではない。これを本件についてみるに、被上告人に対し、上告人蟹沢カヨが本件建物について経由された自己名義の所有権保存登記の抹消登記手続を、上告人沢藤善八が本件建物について経由された右上告人蟹沢カヨからの所有権移転請求権保全仮登記および所有権移転登記の抹消登記手続を、それぞれする義務がある以上、被上告人の上告人らに対する右各登記の抹消登記手続を求める請求は、認容されるべきであり、たとえ、本件建物について右上告人沢藤善八から原審控訴人山本光茂への所有権移転登記が経由されており、被上告人の右山本光茂に対する右所有権移転登記の抹消登記手続請求が認容されず、したがつて、上告人らの経由した前記各登記の抹消登記の実行も不可能であつても(不動産登記法一四六条一項参照)、それがため、被上告人の上告人らに対する前記各登記の抹消登記手続請求が、訴の利益を欠き、不適法となるわけではない。
論旨は、独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)